ヴィーガンだと骨折しやすいのでしょうか?ヴィーガン食と骨折リスクの関係について、英国オックスフォード大学の18年に渡る大規模なコホート研究結果をもとに考察します。
研究の概要
参照したEPIC-Oxford studyの研究内容と結果についてです。
研究内容
・調査期間:1993年~2001年(18年弱)
・対象:イギリス在住の男女65,000名。うち54,898名を分析(肉食29,380名、魚食8,037名、ベジタリアン15,499名、ヴィーガン1,982名)
・骨折件数:3,941(股関節=945、手首=889、腕=566、足首=520、脚=366、など)
研究結果
・肉食者に比べ、ベジタリアンやヴィーガン食の人は骨折のリスクが高い。ヴィーガン食者は肉食者より骨折率が1.4倍高い。どの部位においても骨折リスクが高く、特に股関節が2.3倍、脚が2.1倍などと高い。
・ヴィーガン食の中でも、BMIが低い人、タンパク質やカルシウムの摂取量が少ない人はより骨折のリスクが高い
・ペスカタリアン(魚は食べるが肉は食べない)とベジタリアンも、肉食者より股関節骨折のリスクが1.25倍ほど高い
骨折しやすい要因
上記の結果を見ると、ヴィーガンだと骨折リスクが高いと言えます。なぜヴィーガンだと骨折しやすいのでしょうか。骨の主成分であるカルシウムやタンパク質の摂取量自体が少なくなりがちなことに加え、植物性食品からこれらの栄養素を摂取することが難しい点も関係あると言えます。
栄養摂取不足
そもそもタンパク質やカルシウム、ビタミンDなど骨の健康にかかわる栄養を十分取っていない場合、骨折のリスクが高くなります。ヴィーガンに限らずですが、食事から必要な栄養をしっかり摂取する必要があります。
カルシウムは、20歳以上の女性の場合、1日の摂取推奨量が650㎎ですが、実際の摂取量は500㎎ほどで大幅に不足しています。ちなみにアメリカでは、19~50歳の女性の摂取推奨量は1000㎎で、51~70歳の女性は1200㎎です。
栄養の吸収率の問題
必要な栄養素をしっかり栄養を摂っている場合でも、動物性食品を食べない場合、カルシウムやタンパク質が欠けやすい可能性があります。なぜなら植物性食品から摂る場合と、動物性食品から摂る場合では生体利用率(Bioavairablity)が異なるからです。
カルシウムはあまり吸収率がよくない栄養素です。吸収率が高い乳製品でも40%ほど、野菜からは20%ほどしか吸収されません。なぜなら植物性食品にはカルシウムの吸収を阻害するシュウ酸(ほうれん草など)、フィチン酸(豆、穀類など)、リン、食物繊維などが含まれるからです。仮に動物性食品と植物性食品から同じ量のカルシウムを摂取したとしても、吸収率を考慮すると、植物性食品しか食べない場合、半分くらいしかカルシウムを吸収できていないことになりますね。
タンパク質も同様に、植物性と動物性のタンパク質では利用効率が異なります。同じ量を摂取したとしても、肉魚類からとった場合と豆類からとった場合では、生体利用率が低く、エネルギー変換率が悪いのです。
BMIが低い
BMIが低い(つまり痩せ気味)だと骨折リスクが高まります。ヴィーガンの場合、BMIが低い傾向があり、転倒した場合に脂肪や筋肉のクッションがないため骨折リスクが高い可能性があります。
ヴィーガンは良くないのか?
骨の健康を考えた時に、ヴィーガン食はやめるべきなのか?と言えば、そんなことはありません。ヴィーガン食でも骨の健康を維持することは可能です。
PubMedの記事でも、「注意深く十分なカルシウムとビタミンDを摂取し続ければ、プラントベース食(ヴィーガンやベジタリアンなど)は骨の健康に決定的な影響を与えない」としています。
ただし気を付けたいポイントが2つあると考えます。1つはヴィーガン食が良いか悪いかということではなく、その食事法が自分の身体に合っているかどうかです。どんな食事法であってもその人にとって十分な栄養が摂れていれば問題はありません。2つめは、ヴィーガンやベジタリアンを支持する方の見解でも、いずれも「しっかり必要な栄養素を摂っていれば」という条件付きで「問題ない」としています。そのため動物性の食品から摂る栄養素が欠けがちになるということを念頭に置いた上で、計画的に食事をする必要があると言えるでしょう。
骨の健康に必要なのはカルシウムだけではない
上記に述べたカルシウムやタンパク質以外にも、ビタミンDやビタミンKなど丈夫な骨づくりに不可欠な栄養があります。
ビタミンD
カルシウムとビタミンDを一緒に取ることで、カルシウムの吸収率が高まります。多くの日本人はビタミンDの摂取量が目安量を下回っています。ビタミンDが不足すると骨の代謝異常を引き起こし、骨粗しょう症の要因になる可能性も。
ビタミンDは魚介類、肉、乳製品、卵、きのこ類などに含まれます。脂溶性ビタミンのため、油と一緒にとると吸収率が上がります。また日光(紫外線)に当たると体内でビタミンDが生成されるので、適度な日光浴は骨の健康に役立ちます。
ビタミンK
ビタミンKはカルシウムを骨に沈着させて形成を促進します。腸内細菌からも作られるため、一般的な食事をしている場合は欠乏の心配はないと言われています。
ビタミンKは納豆、ブロッコリー、ほうれん草、モロヘイヤ、海藻などに含まれます。脂溶性ビタミンのため、油と一緒にとると吸収率が上がります。
適度な運動
骨を上部にするためには運動は欠かせません。骨は負荷をかけること強化される性質があるためです。
控えたい食品
アルコール、カフェイン、タバコ、加工食品に多く含まれるリンなどはカルシウムの吸収を阻害する可能性があるため、過剰摂取には気を付けましょう。
骨の健康のために今すぐできること
骨の健康のためには、カルシウム、タンパク質、ビタミンにミネラルをバランスよく食べましょうということなのですが、ここでは今日からできることを2つご紹介します。
お酢
お酢はカルシウムの吸収を助けます。酢の物やお酢を使ったドレッシングを使うなど、お酢を取り入れてみると良いでしょう。
かかと落とし運動
かかとを上げ、勢いよく床に落とします。かかとに刺激を与え、骨を形成する細胞の働きを活発にすることができます。
まとめ
ヴィーガンであってもそうではなくても、偏った食事をしないことが大切だと感じます。特に骨の健康に必要な栄養素は動物性食品から摂取した方が効率が良いため、動物性のものを食べない場合はより計画性が求められると言えます。
日本では50歳以上の女性の3人に1人は骨粗しょう症になるといわれています。年代別では50代で9人に1人、60代で3人に1人、70代で2人に1人の割合です。骨の健康ということを考えた場合、女性(特に中高年以降)はタンパク質やカルシウム、ビタミンDなどを意識的にしっかり摂りたいところですね。